光散乱を原理とする粒子分析法 (複素散乱振幅センシング: CAS等)で得られる測定データの物理的解釈には、光散乱理論に基づく予測計算ソフトウェアが不可欠です。この予測計算では、入力パラメータ(粒子の物理特性:形状・複素屈折率・体積・混合状態、媒質屈折率、入射波特性:周波数・偏光状態・ビーム形状)から、特定の検出位置における散乱波の振幅・位相を算出します。光散乱問題において厳密解が得られるのは球形粒子等の限定的な条件下のみであり、多くの実用的条件下ではマクスウェル方程式の数値解法に依存せざるを得ません。現在、多様な数値計算手法1とそれに基づくオープンソース・商用ソフトウェアが利用可能ですが、先端的研究においては独自開発のソフトウェアが有用となる場合が多々あります。
私たちは、光散乱原理に基づく粒子分析装置の設計およびデータ解析で利用することを目的として、任意形状・混合状態の粒子に適用可能でかつ高速な光散乱シミュレータ"Block-DDA"を開発しています(写真1) 。Block-DDAは、離散双極子法 (Discrete Dipole Approximation: DDA)2のオリジナルコードであり、任意形状・混合状態に加えて複屈折性(結晶性物質における偏光依存性屈折率)を持つ粒子への適用が可能です。従来のDDAでは、3次元空間における個々の粒子配向について散乱解を逐次的に求める必要があり、多配向の解析に膨大な計算コストを要していました。これに対しBlock-DDAでは、計算負荷の主要因である行列計算にblock-Krylov部分空間法3を実装することで、数百程度の異なる配向に対する解を一括して得ることを実現しています。この手法により、例えばランダム配向の粒子群を観測した際のCASの出力結果(複素散乱振幅データの統計分布) の高速な予測計算が可能となりました。
私たちは現在、複数の散乱シミュレータ (Block-DDA、T-Matrix法等)による予測計算と機械学習的手法 (計算ベイズ統計等)を組み合わせることで、多様な環境粒子種についてCASで得られる複素散乱振幅データから物理パラメータ(体積・複素屈折率・非球形度) を統計的に推定する手法の開発を進めています4, 5。現在、当研究室ではシミュレーションやデータ解析のためのプログラミング言語として主にPythonを使用しています。
写真1. Pythonで書かれたBlock-DDAのコードの一部 (2025年1月5日撮影)
引用文献
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Kahnert, M., Numerical solutions of the macroscopic Maxwell equations for scattering by non-spherical particles: a tutorial review, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transf., 178, 22–37, 2016. https://doi.org/10.1016/j.jqsrt.2015.10.029.
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Yurkin, M. A., and Hoekstra, A. G., The discrete dipole approximation: an overview and recent developments, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transf., 106(1–3), 558–589, 2007. https://doi.org/10.1016/j.jqsrt.2007.01.034.
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Tadano, H., and Kuramoto, R., Accuracy improvement of the Block BiCGSTAB method for linear systems with multiple right-hand sides by group-wise updating technique, J. Adv. Simul. Sci. Eng., 6(1), 100–117, 2019. https://doi.org/10.15748/jasse.6.100.
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Moteki, N., Capabilities and limitations of the single-particle extinction and scattering method for estimating the complex refractive index and size-distribution of spherical and non-spherical submicron particles, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transf., 243, 106811, 2020. https://doi.org/10.1016/j.jqsrt.2019.106811.
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Moteki, N., Ohata, S., Yoshida, A., and Adachi, K., Constraining the complex refractive index of black carbon particles using the complex forward-scattering amplitude, Aerosol Sci. Technol., 57(7), 678–699, 2023. https://doi.org/10.1080/02786826.2023.2202243.